デジタル時代の“見えない安全”をどう設計するのか**
2025年、オーストラリアの16歳未満SNS利用を禁止するニュース が注目を集めています。
政策は「Age Assurance(年齢確認)」強化の一環であり、主要SNSに対して
確実な年齢確認と未成年利用の制限 を義務づけるものです。
世界的には、EUのDSPA(Digital Services Package)や、
米国のKOSA(Kids Online Safety Act)など、
未成年のオンライン保護に関する動きが加速しています。
オーストラリアは、その潮流の “先行事例” と言える状況になっています。
子どもを守るための禁止なのか、
子どもから世界を奪う可能性のある禁止なのか
SNSは危険だ、という感覚は、多くの保護者が抱いているものです。
事実として、若年層のSNS利用には以下のようなリスクが指摘されています。
- 睡眠障害や自己肯定感の低下
- オンラインいじめ(cyberbullying)の増加
- 過度な比較によるストレス
- 依存的な使用(scroll addiction)
こうした背景を考えると「16歳未満禁止」は、
強めではありますが“安全策”として理解しやすい政策です。
しかし一方でSNSは、
現代の子どもたちにとって 学校の外にあるもう一つの公共空間
でもあります。
- 同年代の価値観に触れる場所
- 作品や活動を発信し、世界から反応を受け取る場所
- 多様性の中で、自分の輪郭を見つけていく場所
単純な禁止だけが進めば、
子どもたちから 学びと表現のチャンス を奪ってしまう可能性があります。
技術で守るのか、社会で育てるのか
──この政策が突きつける問い**
興味深い点は、オーストラリア政府がこの政策と同時に
年齢確認技術(Age Verification / Age Estimation)への投資を強化していること です。
AIによる年齢推定、デジタルID、顔認証、安全な匿名証明など、
SNSやプラットフォーム側には今後、
「ユーザーの年齢を正確に扱うこと」 が求められていきます。
これは、これまでインターネットが大切にしてきた
匿名性と自由の再設計 に踏み込む動きでもあります。
SNS禁止の議論は、子どもの問題だけではなく、
私たち全員が向き合うべき 社会と技術の境界線 を問うものになりつつあります。
禁止だけでは不十分?
必要なのは “デジタル版の交通教育” です**
現実世界で子どもに自転車や交通ルールを教えるように、
SNSにも 「使い方を学ぶ教育」 が本来必要なのではないかと感じます。
例えば、
- 情報との向き合い方
- 匿名性の利点と危険
- SNSで言葉を使う重さ
- 発信のリスクとリターン
- 困ったときに相談できる先
こうした「デジタル・リテラシー教育」がないまま禁止だけを進めても、本質的な安全にはつながらないのではないでしょうか。
では、日本はどうする?
日本でも若年層のSNS起因トラブルは増えていますが、国レベルでの強力な規制はまだ慎重な姿勢です。
理由としては、
- 表現の自由の尊重
- 広告産業・クリエイター経済への影響
- 教育・学習機会の損失
- 親子間のITリテラシー格差
など、複数の要素が絡み合うためです。
しかし、もしオーストラリアの政策が一定の成果をあげれば、
世界全体が 「未成年のSNS利用を国がコントロールする方向」 へ
一段階シフトする可能性があります。
日本もいずれ、
「禁止か、教育か、技術か」
自国のスタンスを明確にする時期が来るでしょう。
おわりに──
“安全”を作るのは技術だけではなく、社会そのものです**
SNS禁止の議論は、一見すると強い政策に見えます。
しかしその本質は、
デジタル時代における 「人間と社会のつながり方」 を問い直すことにあります。
テクノロジーは便利で、確かに強力です。
それでも 本当の安全は、人と人の間で育まれるもの だと思います。
政策は仕組みを整える助けになりますが、子どもたちを守るのは、家庭、学校、地域、そして大人たちの姿勢です。
そしてオーストラリアの「16歳未満SNS禁止」は、世界のデジタル社会が次のステージへ進むための“テストケース”と言えるのかもしれません。
